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2016年03月17日号

1;輸出市場に逆風~セメント

「セメント輸出が以前の限界利益商売の時代に逆戻りしてきた感もある」(大手セメント役員)。中国経済の減速などを背景に、セメント輸出への逆風が急速に強まっている。すでに買い手側へのパワーシフトが起こっており、スポット契約を中心に価格も弱含みで推移する。アジアの需給ギャップは今後、一段と拡大する可能性が大きいことから、輸出市場の回復まで長い時間がかかるとの観測が出始めている。

セメントの輸出市場は、売り手優位の良好な状態が長く続いてきた。中国や東南アジアの需要拡大がその要因だが、特にここ数年はかつてない水準まで価格が上がり、それに円安が加わったことでメーカー各社の輸出採算が著しく改善。限界利益商売を返上し、「収益は国内に匹敵するレベル」(同)にまで到達したという。2014年度以降の国内需要の低迷の影響を緩和する役割も果たしている。

ところが、昨秋頃を境に輸出市場は様変わりし、それまでの売り手市場から買い手市場に180度転換した。中国の経済減速に加え、インドネシアなど東南アジア各国における生産能力増強によって、需給ギャップが拡大したことがその要因だ。そこからセメントがあふれ出し、日本のメーカーが守ってきたシンガポールや豪州など主要仕向先にじわじわ進出している。

「想定を上回るスピードと程度で輸出環境は悪化している」(同)。競合が強まっているのがクリンカの輸出市場。セメントに比べてハンドリングが良く、貯蔵設備や特別な荷揚設備がなくても輸出できる。仕向地によって状況は異なるが、スポット価格はFOBベースで40ドルを割り込んでいるとされ、足元では30ドル台を維持できるかどうかの攻防が行われているという。

セメント協会によると、今年度のセメント輸出は前年に比べ11・5は%増の1050万トンとなる見込み。2年連続の増加で、4年ぶりに1000万トンの大台に乗る。16年度は輸出ドライブがさらに強まり1200万トンに達する見通しだ。国内需要が盛り上がりを欠いた状況が続くとの見立てがその背景にある。

旧正月を終えて、主要仕向先ユーザーとの16年度の長期契約交渉が本格化している。値下げ圧力が強まるのは必至で、交渉の行く末は予測がつかない状況との声も聞かれる。国内需要の現状と先行きを踏まると、価格よりも数量を優先せざるを得ないのが実情だ。日本のセメント産業の特有の事情だが、循環型社会への貢献という静脈の役割を果たし、かつ大きな収益源に成長した廃棄物リサイクル事業を維持するためにも一定の生産量を確保する必要がある。

輸出環境の悪化は一過性でなく、中国の構造調整が一巡するまで回復は見込めないとの声もある。インドネシアなどではこれから操業を始めるセメント工場もあり、輸出環境の一段の悪化も懸念されている。あるメーカーの輸出担当者は「辛い時代がしばらく続きそうだが、回復するまで歯を食いしばってマーケットを死守しないといけない」と指摘する。