文字サイズ(変更方法 文字サイズを大きく 文字サイズを小さく
2015年04月23日号

1;特需対応に動く東京の生コン

東京の生コン会社が、東京オリンピック・パラリンピック施設工事やインフラなど特需に備えて、供給体制の整備に乗り出している。コンクリートミキサの入れ替えや老朽化した設備の更新、積載量が通常の大型車より1割多い低床型コンクリートミキサ車(低床車)の導入、老朽ミキサ車の延長利用など、計画を含め生産、輸送両面であの手この手の対策が行われている。ただ、特需の全貌がいまだみえず、どこまでの備えが必要か手探り感も漂う。ミキサ車運転手の確保、夜間出荷対応、骨材の安定調達など課題も山積みだ。

都内では大規模な工事が目白押しだ。新国立競技場、選手村、各種競技施設といった五輪関係のほか、再開発工事、交通インフラ整備、ホテル新増設が計画されている。東京地区生コンクリート協同組合(吉野友康理事長)は今年度の出荷量を前年比0・7%増の320万m3と予想。2016年度以降、これに特需分が上乗せされ、18年度まで高原状態が続くというのが生コン業界の見立てだ。

輸送能力が要

「生コンの出荷能力は輸送能力で決まる」(都内の生コン会社)。安定供給の要である輸送能力の増強策として低床車(4・75m3積み)の導入が進む。東京協組の調査によると、昨年7月時点で5m3積みを含め全体の2割強を占める。アサノコンクリートは昨年、品川工場の全車両を大型車から低床車に入れ替えた。今年は深川工場の全車両を低床車に切り替える。浮間工場での導入も検討中だ。晴海小野田レミコンも低床車への切り替えを進めており、今年度中に6台を新たに投入する。

新車との入れ替えで通常は売却・廃棄する老朽車を温存する。車両の更新は比較的スムースだが、新車の納期が長く、「増車」が容易に行えなくなったことが背景にある。

各社の対策で輸送能力は着実に向上しているものの、その稼働状況は依然としてタイトだ。東京協組の特需対応検討ワーキングチーム(西森幸夫チーフ)が組合員を対象に実施したアンケートによると、保有車両の稼働について「少し苦しい」、「苦しい」の合計が8割を超えており、組合員の過半が毎日、近隣工場との貸し借りや傭車などで不足分を埋めている。現場工程がネコの目のように変わり車両の運行効率が低下していることが原因と見られる。

ある生コン会社の幹部は「五輪関係など多くの工事が予定されているが、現場が対応できるかどうか不安。ミキサ車を増やしたいが、現場の状況を考えると先行投資は慎重にならざるを得ない」と特需対策とコストのバランスに頭を悩ませる。

高齢化が進行

運転手の確保も大きな課題だ。高齢化の進行と若年層の減少で足元でも「運転手集めに苦労している」(同)。運転手の25%が60歳以上、20歳代は数%とのデータもある。派遣組合の運転手も高齢化しており、年を追うごとに運転手不足が深刻化するというのが支配的な見方だ。都内の輸送会社は「運転手の確保状況にも目配りしながら、車両台数を考えないといけない」と指摘する。

老朽設備を更新

一方、生産面ではミキサの入れ替え、プラントの増設が実行、あるいは計画されている。特需対応を機に、安定操業の観点からベルコンや脱水機、操作盤など老朽化した設備・機器の更新も行われている。

昨年から今年にかけて工場移転で日立コンクリート新砂工場、晴海小野田レミコン新工場とともに2プラントの大型工場が操業を始めたほか、東京菱光コンクリート、上陽レミコン東京工場などがミキサを更新した。

東京エスオーシーは芝浦工場を2プラント体制とする。既存プラントの横にミキサ容量3300リットルのプラントを増設するもので、生産能力は1・5倍に向上する。品質トラブルの未然防止とともに、高強度、軽量、重量など特殊コンクリートに的確に対応する狙い。8月末に完成、JIS認証や大臣認定を取得したうえで、来春から本格操業を始める予定だ。

また、東京菱光コンクリートは、コンクリートの多品種化に対応するためにセメントサイロ200トン1基(2分割)、150トン1基、骨材サイロ900トン(3区画)を増設する。年内完成を目指し7月に着工する。関東宇部コンクリート工業は、都の運河護岸工事に合わせて主力の豊洲工場の骨材荷揚げクレーンを更新する。騒音・景観対策を強化する目的もあり、8月に据え付け工事を開始、10月頃に完成する予定だ。時間当たり能力は従来の200トンから250トンに向上する。同時に更新で空くスペースに、ダンプで骨材が受け入れられるようホッパーを設置する。

応援体制を整備

特需対応検討ワーキングチームでは、組合員などへのアンケートで得られたデータを基に今年度、安定供給策の検討に着手する。これまでの調査で生産能力は十分な余力があることを確認。豊洲新市場工事をモデルケースに、ブロックを超えた応援体制を組み、供給責任を最大限果たす。

焦点は輸送力の確保と、工期が迫った際に予想される夜間出荷への対応だ。輸送については近隣工場間のミキサ車の貸し借りがよりスムースにできるよう協組によるサポート体制を検討する考え。夜間出荷は、運転手の確保など条件が揃えば十数工場が対応できるもよう。西森氏は「できること、できないことをはっきりさせないといけない。ゼネコンとの調整とともに、組合員に対するインセンティブも必要と考えている」と語る。