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2015年03月19日号

1;セメント輸出枠拡大

セメントの輸出が伸びている。国内需要の「予想外の不振」を受けて、輸出メーカーが昨年度までの輸出抑制措置を解除したためだ。セメント協会の見通しによると、2015年度は今年度見込みに対し50万トン増の1000万トンと4年ぶりに大台に乗る。輸出メーカーは国内需要が下振れることも視野に入れて備えを進めており、状況次第では50万トン前後上振れる可能性もある。

セメントの生産計画から内需分を差し引いた残りが輸出枠。内需の増減に応じて輸出枠を伸縮させて、セメントの最大生産と適正在庫を維持する調整弁の役割を担う。国内最大の輸出メーカーは宇部三菱セメント、次いで太平洋セメント、住友大阪セメント、トクヤマなどの順。宇部三菱、太平洋両社で全体の9割近くを占める。  直近の輸出のピークは2009年度の1105万トン。前年のリーマン・ショックで世界的な金融危機が起こりセメント内需が急減、メーカー各社は生産を維持するために輸出枠を広げた。

震災復興や民間投資の背景に、内需が12年度から本格的な回復局面に入ったことを受け、メーカー各社は一転、輸出を削減して内需に振り向ける措置を取った。構造改革で生産能力を縮小したため、内需、輸出両方を満たせなくなっている。

13年度は内需が前年より313万トン増えたのに対し、輸出は850万トンと113万トン減った。内需増加分の4割弱を輸出削減で補った計算だ。

今年度は当初、内需が小幅増の4800万トン、輸出が横ばいの850万トンと予想されていた。ところが、春以降、大方の予想とは裏腹に内需に減速感が広がり、在庫水準が上昇。メーカー各社は生産調整を回避するために輸出抑制措置を解除した。原価構成で欠かせない要素の産業廃棄物処理量を維持する意味合いもある。セメント協会のまとめによると、4~1月の輸出は前年同期に比べ9・5%増の777万トンとなった。通期では950万トンになる見通しとなり、前年実績を3年ぶりに上回る。

メーカー各社は、主要取引先への保留枠の放出、スポット対応などで輸出を積み上げており、宇部三菱は当初計画より約50万トン増の500万トン弱、太平洋は20万トン増の310万トンでそれぞれ仕上がる見込み。

仕向地によって異なるが、輸出価格はセメントベース(FOB)で45ドル前後と過去最高値水準で推移。昨秋からの急速な円安が重なり、輸出採算は著しく向上する。フルコストをカバーできる水準に到達しており、メーカー各社のセメント事業収益を押し上げる方向に作用している。

内需は15年度も4600万トン程度にとどまる見通しだ。メーカー各社はフル生産を維持するために、輸出枠をさらに広げる。宇部三菱は足元の計画は470万トンだが、500万トン超まで増やす方針だ。太平洋は360万トンを予定している。内需が下振れるようだと、上積みを迫られるのは必至だ。

主要仕向先のシンガポールなどアセアン諸国、豪州、香港・マカオの内需はここ数年、底堅く推移している。来年度も日本のセメントの「吸収役」となる。ただ、輸出競合国が増えており、スポットの必要量の確保は難しくなるとの指摘もある。