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2013年08月29日号

1;輸出抑制、内需に振り向け~セメント

セメントの輸出に急ブレーキがかかっている。大きく上振れる国内需要に対応するため、セメントメーカー各社が輸出を抑え、国内に振り向けているためだ。最大の輸出メーカーである宇部三菱セメントは、今年度の輸出計画を500万トンから450万トンに下方修正し、二番手の太平洋セメントは300万トン程度と従来予想を50万トン前後下回る見通しを示す。今後、内需の勢いがさらに増せば、一段の削減を迫られる。そのため、今年度の輸出はセメント協会見通しの980万トンを大きく下回るのは確実で、800万~850万トンにとどまる可能性も出てきた。

セメントの輸出は03年度以降、960万~1100万トンの高水準が続いていた。公共投資の削減で内需が縮小する中で、メーカー各社が一定の生産量を維持するために輸出拡大に舵を切ったことが背景にある。特に、リーマン・ショックで国内外の景気が冷え込んだ08年度以降、総販売(国内販売と輸出の合計)に占める輸出の割合が、それまでの15%前後から18~21%に上昇した。

輸出割合が低下

東北の震災復旧復興が本格化し始めた昨秋から輸出が鈍化。昨年度実績は前年比3・7%減の963万トンと1000万トンの大台を割り込み、輸出割合も19・3%から18%にダウンした。  メーカー各社は今年度の内需を4500万~4600万トンと想定、それをベースに輸出計画を組んだ。輸出はバッファーと位置付けられており、基本的に年間の生産計画から内需見通しを引いた分が輸出枠となる。

しかし、予想以上に内需が伸びており、足元の状況では4700万トンを超えるのはほぼ確実な情勢だ。「輸出を削る以外に(内需の増加に)対応する方法がない」(宇部三菱セメントの小野朗友国際営業部長)ことから、メーカー各社は一斉に輸出抑制へと舵を切った。

今年度の輸出は、4~7月実績で前年同期に比べ59万7千トン減(18・3%減)の260万4千トンだった。2月以降、6か月連続の減少。内訳はアジア向けが13・3%減の198万トン、そのほか向けが32・2%減の62万トンだった。一方、国内販売は、震災復興に加え、近畿や九州での災害復旧工事や大都市圏での民需がけん引するかたちで111万6千トン増加した。輸出割合は14・8%と3・9ポイント低下している。

宇部三菱セメントは、ペナルティを課せられない輸出契約を解除したり、他国品に一時切り替えてもらって契約実行を先伸ばしたりするなどの措置を取っている。

太平洋セメントは、「内需の上振れに対処するために1割程度を確保していたスポット輸出枠を国内に充てている」(菊池謙・取締役常務執行役員)。同社の輸出拠点は上磯、大分両工場だが、今年度は大分工場の国内向け割合を引き上げ、グループ会社の敦賀セメントや明星セメントからの輸出を増やしている。今後の輸出について菊池常務は、「内需の動きを見ながら、しばらく臨機応変な対応が求められる」と指摘する。

商圏を維持

一方、輸出マーケットは良好な状態が続く。東南アジア、オーストラリアなど仕向け先各国の需要が好調。加えて極度の円高の修正が進み、輸出価格も高値を維持するなど、輸出採算は大きく改善している。メーカー各社は、輸出抑制によって日本の商圏が失われないよう限られた輸出枠を、シンガポールやオーストラリアなど「永遠のセメント輸入国」に重点的に充てている。