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2017年11月16日号

1;値上げ方針固める~太平洋セメント

太平洋セメントがセメントの販売価格を引き上げる方針を固めた。セメント焼成用の石炭価格の高騰などによるコストアップを売価に転嫁するもので、金額や時期は12月に明らかにする。セメント最大手が値上げを決めたことで、ほかの大手や中堅も追随する公算が大きい。
太平洋セメントが10日開いた決算説明会で福田修二社長は「値上げをやる」と言明した。新たな値上げの打ち出しは、1000円上げた2011年以来となる。
第一の理由は石炭価格の高騰だ。福田社長は「今年は(トン当たり)20ドルぐらい上がっている。来年は高止まりと思っていたが、中国の需給状況を考えると10ドル近く上がる可能性が高い」と指摘した。耐火レンガの購入費用の上昇も理由に挙げた。その原料となるマグネシアの採掘が中国で全面的にストップしているためで、「価格は倍になる可能性がある」と収益を圧迫する懸念が強まっている。
さらに船舶用燃料の上昇やセメントバラ車のドライバー不足などにより物流コストも膨らむ。福田社長は「運賃を上げないと、人が集まらない状況」とし、また、陸上輸送の効率化や安定供給を確保するために容認するようになった「高速道路利用」もコストを押し上げている。
一方、住友大阪セメントの関根福一社長は8日の決算説明会で、原材料費、輸送費、人件費などが上がっているとし、「タイミングをみて値上げをしていく必要がある」と述べ、下期にその「雰囲気」を醸成したいとの考えを示した。
直近でメーカー各社がこぞって値上げに取り組んだのは13年度。上げ幅は1000円程度で、メーカーによって成果は異なるが、おおむねトンあたり500円上がったとされている。
14年度以降、新たな値上げの打ち出しは行われていない。燃料安やセメント輸出収益の増大が業績を支え、必ずしもその必要性に迫られなかった。加えて予想に反する形で国内需要が減少局面に突入して需給が緩み、やるにやれなかったという事情もある。
だが、国際競争の激化を背景に、輸出収益は低下。石炭価格も上昇基調が続く。昨春まで50ドル台だったのが、足元では100ドル前後と高値圏で推移しており、メーカー各社の収益悪化を招いている。
値上げに向けた環境も整ってきた。国内需要が増加に転じたことで、一時に比べて需給が締まってきた。今年度は4300万トン前後と前年を3%程度上回り、東京オリンピックやリニア中央新幹線といった特需などが支える形で18~19年度も堅調需要が見込まれている。さらに、セメントの7割を消費する生コン業界も落ち着いており、全国的に市況水準も上昇している。足元でも関東一区や近畿など各地で生コン値上げの打ち出しが相次ぐ。
ただ、その好環境も長続きしない。五輪後の20年度以降は再び需要減少局面に入り需給が緩和する公算が大きい。好環境を生かせるかどうか今回の値上げの決定はぎりぎりのタイミングだった。