1;値上げ探るセメント各社
セメントの価格政策をこれからどう展開していくかメーカー各社が思案をめぐらせている。メーカー各社が値上げを打ち出したのは2013年度が最後。一定の成果を上げた後、これまで未達成分の実現に向けた交渉が続けられている。ただ、それだけでは「再生産可能な収益の確保」という着地点に至らないとして、新たな値上げの打ち出しが模索されている。
メーカー各社は13年4~7月にトン当たり1000円程度の値上げに着手した。当時はセメント需給がタイト化。セメントの7割を消費する生コンの景況も改善するなど値上げが通りやすい環境が整ったとの判断が働いた。
しかし、交渉は予想以上に難航。生コン会社が骨材値上げの受け入れを優先したことに加え、メーカー各社の好業績を理由に抵抗を強めたため。メーカーによって値上げ姿勢に強弱があったことも影響し、実際に有額回答が積み上がり始めたのが翌年の春頃だった。
それを反映して昨年夏までに都道府県庁所在地のうち29か所で建設物価の表示価格がトン当たり200~500円上伸した。ただ、近畿は全域で据え置かれるなど地域間値差は広がった。
14~15年度の2年間で値上げを打ち出したのは北海道の日鉄住金セメントだけでトン当たり1000円以上を昨春表明した。大手メーカーからは値上げの号砲は鳴らず、過去の値上げの未達分の浸透を図る交渉が中心となっている。
価格政策が遅滞する中で取り巻く環境は変化している。セメントの国内需要は伸びる期待に反して不振が続いており、今年度は前年度実績を150万トン以上下回り、4400万トンを割り込む見通しとなった。2年連続で当初予想から200万トン以上の下振れとなり、需要の先行きに不透明感が広がっている。
需給の緩和を反映して、工事口向けのセメント価格が全般に弱含んでいるもようだ。かつてのように安値が横行するようだと、生コンなど固定先向けの価格に影響するとして、メーカー各社は競争が行き過ぎないよう注意を払っている。
セメント値上げに理解が得られやすい環境は整いつつあるというのが業界内の共通の見方だ。生コン市況が全国的に上がり、陥没市場もおおむね一掃されたこと、大手ゼネコン各社が軒並み最高益を計上していることがその根拠である。
「値上げをやるからには納得性を高めないといけない」(セメント大手)。アドバルーンを上げて不発に終わるようだと、これからの価格政策にも響きかねない。メーカー各社は同業他社を横にらみしながら慎重に機会を探っている。