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2015年10月08日号

1;学会指針に反映提案~ECMセメント

「高炉スラグを活用した環境配慮型のコンクリート『ECM(エネルギー・CO2・ミニマム)セメント・コンクリート』の普及拡大を目指す」。日本スラグセメント・コンクリート技術研究会(大門正機会長=東京工業大学名誉教授)はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトで開発したECMセメント及びそれを使用したコンクリートの普及拡大に向けた研究開発や情報収集、技術交流などに取り組んでいる。

ECMセメントは、高炉スラグを反応主材としたセメントで、普通セメントと比べて生産時のエネルギー消費量を60~70%削減できる。高炉スラグの分量は高炉セメントC種に相当し、汎用化できれば建設産業で発生するCO2を大幅に削減する切り札となり得る。NEDOプロジェクトには竹中工務店、鹿島建設、デイ・シイ、日鉄住金高炉セメント、東京工業大学、太平洋セメント、日鉄住金セメント、竹本油脂の1大学7企業体が参画した。

研究会はNEDOプロジェクトのメンバーが中心となって2014年8月に発足した。普及拡大を図るうえでの技術的な課題をクリアするため、鉄鋼スラグ協会が特別会員として参加しているほか、顧問に東京工業大学の長瀧重義名誉教授、専門委員に東京工業大学の坂井悦郎教授、芝浦工業大学の伊代田岳史准教授、前橋工科大学の佐川孝広准教授が参加している。

研究会では普及拡大に向けた事業として、ECMセメントとそれを用いたコンクリートの性能改善・改良のための調査・研究や技術情報などの会員への情報提供、学協会の指針・規基準類作成の際の委託者側としての業務、将来のJIS化における原案作成協力団体としての業務、会員相互の技術交流などに取り組んでいる。

不具合リスク低減

研究会の米澤敏男副会長(竹中工務店)は「高炉セメントB種を採用していた用途にECMセメントを置き換えればひび割れなどの不具合リスクが減り、CO2の削減量も大幅に増える」とECMセメントのメリットを強調する。竹中工務店、鹿島建設はNEDOプロジェクトが終了した昨年8月以降、ECMセメント・コンクリートを積極的に展開。コンクリート用途では建築物の基礎や杭に8件、地盤改良用途では建築物の液状化対策や基礎下地盤改良、山留に7件の合計15件のプロジェクトに採用した。今後もコンクリート用途で20~30件、地盤改良用途で5~10件のプロジェクトで採用を検討している。

実工事への適用を進める一方で、将来の普及拡大を視野に入れた活動も進めている。具体的には日本建築学会が改定作業中の「高炉スラグ微粉末・高炉セメントを使用するコンクリートの調合設計・施工指針(案)」に高炉セメントC種を使用したコンクリートを盛り込む提案を大林組、大成建設、清水建設などと共同で進めている。研究会では各種実験を実施してデータ収集にも取り組んでおり、14年度はECMセメント・コンクリートの構造体強度や流動性とその経時変化を検証したほか、促進試験及び長期暴露試験による中性化評価などを行った。

また、実構造物のデータ収集を目的に高炉セメントC種を使用したコンクリートを採用し、建設から52年が経過した建築物の調査も実施した。

普及へ情報共有

研究会では会員各社でECMセメント・コンクリートを採用する際の留意点などの情報共有を図っている。米澤副会長はその意図について「混合セメントは初期の強度発現や中性化が弱点であり、使う方もそれを認識して使わないといけない。大きな不具合が出れば普及に水を差すことになりかねないので、会員各社で情報を共有し、使用にあたっての注意点などを示しながら普及を促していきたい」と話す。今年7月に開いた総会では竹中工務店、鹿島建設が建築物件及び地盤改良にECMセメントを適用した事例を報告し、適用の状況や課題などの情報を共有した。

研究会は来年度以降、活動の軸足を普及に移す。大門会長は今後の展開について「高炉セメントは初期強度を求めて粉末度を細かくしてしまったことでひび割れなどの不具合を出してイメージが悪くなってしまった。ECMセメントは同じ轍を踏まないように研究会で正しい使い方を示して、広く使ってもらえるものにしていきたい」としている。