文字サイズ(変更方法 文字サイズを大きく 文字サイズを小さく
2014年04月24日号

1;セメント値上げが進展

セメントの値上げ交渉が進展している。セメントメーカーによって交渉の進捗度合いは異なるが、生コン会社の経営環境が好転した地域を中心に4月からおおむね300~500円上がっている。ただ、回答保留や提示額を下回る回答も少なくないため、メーカー各社はさらなる浸透を目指して4月以降も交渉を続行中だ。そのため、太平洋セメントや住友大阪セメントは、今年度は新たな値上げの打ち出しを見送る考えを示している。

メーカー各社は、再生産可能な収益の確保を理由に、昨年4~7月から1000円程度の値上げを表明していた。だが、値上げ時期で足並みがそろわなかったこともあり、交渉入りは盆明け以降にずれ込んだ。一部のメーカーは9月末決着を目標に再設定したものの、生コンなど固定先ユーザーの抵抗は強く交渉が難航。その後、当面の妥結目標を500円に圧縮し、12月末、3月末と2度の交渉の山を越えてようやく回答が積み上がってきた。

固定先ユーザーとの交渉が長期化する一方で、昨秋以降、工事口向け価格の是正が進展。安値が目立ち固定先ユーザーとの交渉が難航する要因になっていたが、セメント需給のタイト化を背景に500~1000円上がった。

固定先ユーザーの受入れ件数は現時点で太平洋セメントが6割程度、住友大阪セメントが4割程度となっている。面的に受け入れが広がったのが九州。主要都市での生コンの市況改善が進み、需要環境も堅調なことが背景にある。メーカーによって成果は一様でないが、北海道、東北、関東、東海、中国などの主要都市でも浸透してきている。

一方、関西での交渉はあまり進んでいない。阪神圏で生コンの受注競争が続いており、セメントの値上げを受け入れられる環境が整っていないためだ。結果的に今回のセメントの値上げ交渉も生コン市場の動向に左右される展開になった。

太平洋セメントは回答が目標の500円を下回る客先に対し、上積みを求める交渉を展開中だ。湊高樹取締役常務執行役員は「昨年度の未完成分の確保に努めているところだ。上期中に仕上げられるだろう」と話す。住友大阪セメントは「(回答保留中の客先で)受け入れてもらえそうな感触を得られているところもあるので4月も交渉を継続している。状況によっては5月も交渉を続けたい」(藤末亮取締役専務執行役員)。

宇部三菱セメントは「13年度の値上げ、14年度の値上げという区切りは行わない。1000円値上げの旗を降ろすつもりはないが、500円を受け入れてもらえればとりあえず手を打つ」(上田純常務取締役)。他社にらみとなるが、交渉が遅々として進まない客先に対し、強硬措置を講じる可能性も示唆する。

追い風活かせず

昨年度のセメントの値上げ交渉は、セメントの7割を消費する生コン業界の経営が全般に改善し、さらにセメント需給のタイト化という好条件下で進められたが、具体的な成果を得られるまで1年余りを要する長丁場となった。メーカーによって販売姿勢に濃淡があったこと、骨材会社の値上げ姿勢が強硬で生コン会社がその受け入れを優先させたことに加え、メーカー各社の好業績も受け入れを拒む要因になった。メーカー幹部は「非常に抵抗が強かった。値上げが通りやすい環境だったが、それを十分生かせなかった」と振り返る。

セメントの価格は、設備の維持修繕など諸々のコストを反映した水準に到達していないと各社は口をそろえる。円安で燃料コストがじりじり上昇し、また需要増対応で生産・物流コストも膨らむ。値上げの必要性はむしろ増しているとされており、いずれ、値上げの動きが再び活発化する公算だ。ただ、ここ数年の値上げの成果を見る限り、従来手法の延長線で価格の適正化を実現できるかどうか不確実性がつきまとう。「200円や300円の受け入れで妥協せず、500~1000円幅で価格を動かせる慣習を作らないといけない」(メーカー幹部)との声もあがっている。