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2013年08月22日号

1;10月値上げへ交渉強化~セメント

セメントメーカー各社が10月1日出荷分からのセメント値上げを目指し、生コンなど需要家との交渉に本腰を入れ始めている。セメント需給はタイト化しており、これから秋の需要期にかけてその度合いが一段と増すのは必至。売り手優位の状況が形成されつつある。

メーカー各社は昨年暮れから春先にかけて今年度の値上げ方針を表明した。上げ幅はメーカーによって異なるが、1000円が中心。設備の維持・更新原資の確保など事業継続可能な収益の確保が目的だ。セメントの7割を消費する生コン業界が需要、市況両面で一時の低迷から脱し、値上げが通りやすい環境が整ったとの判断も働いた。

太平洋セメント、住友大阪セメントなど過半のメーカーは4月値上げを目指したものの、宇部三菱セメントが7月値上げを打ち出したことから、交渉着手は事実上、先送りされた。太平洋セメント、住友大阪セメント、トクヤマなどが交渉に入ったのは7月前後で、各社は10月値上げを目標に再設定した。

工事口の安値是正

メーカー各社がこれまで、特に力を入れているのが工事口の安値の一掃だ。この2年余り安値が目立つようになり、生コンなど固定先ユーザーとの値上げ交渉が難航する要因になっていた。ここへきて安値はおおむね姿を消し、目論んだ成果を挙げつつある。

物流コストが上昇

太平洋セメントは、2年前に打ち出した値上げの未達分の獲得を目指し、各支店に対し交渉を再度強化するよう指示した。円安の副作用で燃料コストが上昇しつつあること、復興需要対応などで物流コストが膨らんでいることに加え、設備トラブルを防止するための維持・修繕費用もかさんでおり、「値上げの必要性は一段と増している」(湊高樹取締役常務執行役員)。また、工事口については、「需給が厳しい状況の中で安売りをするわけにいかない」(同)として選別受注する方針だ。

住友大阪セメントは、秋の需要期に需給がさらにひっ迫することを視野に入れ、「値上げを受け入れたユーザーに優先的に出す」(藤末亮取締役専務執行役員)構え。工事口については現行価格に対し一律1000円アップを求めている。藤末専務は、交渉の進捗を把握するため、盆前に各支店を訪れた。交渉姿勢が弱まらないように今後、各支店を再度巡る予定だ。

宇部三菱セメントは、直取引の大手製品会社を除き固定先ユーザーとの具体的な交渉はまだ行っていない。他社の動向を睨みながら、10月値上げの方向で取り組みを進める。

トクヤマは7月から値上げ交渉を本格化させている。例外なく全ての需要家に値上げを要請しており、ここへきて有額回答が出始めている。「需給はひっ迫しており、下期になると供給が追い付かなくなる可能性がある。値上げを受け入れていただいたユーザーに優先的に供給せざるを得なくなるだろう」(古谷秀吉常務執行役員・セメント部門長)。

工事口向けについても不採算受注撤廃方針を貫いている。同社は工事口の販売割合が高く、中でも関東や関西は約2割を占める。古谷部門長は、「値上げ交渉の最中に、安値の工事口を受注するわけにいかない。けじめをつけた」と語る。

国内需要が右肩上がりで伸びる反面、同社の4~6月の国内販売は前年比横ばいにとどまった。古谷部門長は「シェアダウンは想定の範囲。不退転の決意で値上げに取り組み、自らかいた汗(合理化努力)が残るようにしたい」と強調する。