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2013年06月20日号

1;戻りコン問題是正に道筋

 残コン・戻りコン問題――。生コン業界にとって積年の課題に是正への糸口が見えてきた。戻りコンの発生抑制に有効とされている有償化について、東京都生コンクリート工業組合が売買契約の解除(キャンセル料)の観点から導き出した法的解釈を東京都環境局が適法と判断、有償化の道筋が開けた。神奈川県の廃棄物指導課も「キャンセル料の請求は商取引の中でのやり取り。廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)を所管する当課がそれに関与する立場ではない」と実質的に違法性はないとの見解を示す。こうした見解を背景に、関東一区では戻りコンの発生抑制を目指し、生コン協組が相次いで有償化に踏み切っている。
(青森1年分に相当)
 戻りコンの発生率は全国平均で1・6%。発生量は昨年度の生コン需要9210万m3から算定すると、147万m3に上り、青森や熊本などの年間需要に相当する。
 需要規模が大きく、納入物件数も多い関東一区の発生率は2・5~3%と全国平均を上回る。都市圏に立地する生コン工場の場合、戻りコンの処理は敷地が狭く製品転用などができないことから、場内処理後、最終処分場に廃棄されているのがほとんどだ。
 最終処分場の受入可能年数が短くなっていることもあり、処理・廃棄コストは右肩上がり。「いずれ捨て場所がなくなる」(神奈川県の生コン工場)との懸念も出ている。関東一区に限らず、ほかの地区の生コン工場も、程度の差はあるが同じ悩みを抱えている。
(発生要因は多様)
 戻りコンの発生要因は、打設数量の計算ミス、過剰発注、品質不適合など多様。打設終盤の追加発注を回避するために、生コン工場自らの判断で多めに出荷して余るケースも見られる。このように戻りコン問題は、全てが施工者の責任というわけではないものの、発生量の過半を占めるのが打設数量の計算ミスなど現場要因とされ、その是正が長年の課題となっている。
(法的問題乗り越え)
 戻りコンの発生抑制に効果的とされているのが引取り処理の有償化だ。以前から一部の生コン協組で実施されてきたが、法的解釈がグレーのため、広がりを欠いてきたのが実態だった。
 そうした中で、東京工組が買主の都合で荷卸しせずに持ち帰る生コンについて、買主側による売買契約の解除として取り扱えば廃棄物に該当しないこと、所有権は生コン会社から移らずキャンセル料を請求しても廃掃法による処分を受けないとの法解釈を導き出し、それを都環境局が違法性はないと判断した。ただ、廃棄物は自治体の権限が大きい分野なので、ほかの自治体が都や神奈川県と同じ見解を示すとは限らない。
 有償化で先行したのが三多摩協組で、6月1日以降の引合分から適用を始めた。同日改定したスライド表に「受注し製造したコンクリートが、現場都合により荷卸しせず全量持帰りとなった場合(戻りコン)は、キャンセル料として製品代+4000円/m3を申し受ける」と明記。該当事例が起きた場合、新たに作成した「キャンセルシール」を伝票に貼るなど仕組みも整えた。
 玉川協組は9月に、湘南協組は「出荷後キャンセル」の形で10月にそれぞれ有償化する予定。神奈川協組が実施に向けて検討に入るなど追随する動きも広がっている。
(「見える化」)
 「ゼネコンの購買担当者は、現場で戻りコンが発生していることをあまり認識していない。その数量を示して驚かれることもある」(東京の生コン工場)。発注した生コンは伝票上、全て打設されたものとみなされてきたことが、戻りコン問題に対するゼネコンと生コンの認識のギャップを生んできた。
 関東一区における戻りコン有償化の目的は、1つは戻りコンの存在をゼネコンに認識してもらう、いわば「戻りコンの見える化」だ。有償化によってゼネコンが無駄を認識することで、生コンの発注・打設管理が厳格になり、戻りコンの発生量も少なくなるという考え方である。協組による実態説明を受けて、一部のゼネコンは現場に対し戻りコン抑制を指示した。すでに有償化を前にそういう効果も出てきている。