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2017年10月05日号

1;提携強化の動き続く~セメント業界

セメント業界で提携強化の動きが続いている。2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックを境に、再び訪れるとされるセメントの国内需要の減退局面を見据えたものだ。単独での合理化余地が狭まっているという事情もある。

国内需要は、昨秋に底を打ち、今年度はプラス基調が定着、4~8月で前年同期比3・0%増の1715万トン(見込み)となった。通期想定の4300万トンは射程圏に入ったとはいえ、その勢いは期待より弱い。需要の地域偏在が広がり、RC造からS造への変更などもその足かせになっている。

18~19年度は東京都心での五輪特需や再開発、リニア中央新幹線などが支える形で一定の需要を確保できそうだが、4400万トン前後が上限との声が多い。その後は、程度の差はあっても減退局面に入るという見方が支配的だ。

販路を海外に持つメーカーは、需要減退に備えて輸出の拡大や安定的な仕向地の確保に動いている。ただ、すでに輸出は1200万トンと高水準になっており、伸び代は限定的。「国内需要が4000万トンを切ると、単独の経営努力だけで利益を出すのは厳しくなるのではないか」(セメントメーカー)。

加えて、石炭などエネルギーコストの高止まり、資源問題、設備老朽化など懸念材料は少なくない。メーカー各社は廃棄物利用を含め「乾いた雑巾を絞る」コスト削減に努めているものの、合理化余地は狭まっている。

こうした将来見通しのなか、従来の交換出荷などから大きく踏み込む形で、提携強化が相次ぐ。いずれも全国展開メーカーと地域メーカーの組み合わせだ。

交換出荷で半世紀の歴史を持つ住友大阪セメントとデンカは8月に並存SSの統廃合・共同利用、セメントタンカーの配船一元化を柱とする業務提携強化で合意し、来春に実施する。将来はセメント原燃料代替の相互融通も視野に入れる。

太平洋セメントと日立セメントはこのほど、セメント・クリンカの生産受委託で協定を締結した。交換出荷などで長年培った協力関係をさらに深化させるもので、日立は19年3月末をメドに日立工場でのクリンカ生産を停止し、太平洋からセメント・クリンカのOEM供給を受ける。その量は60万~70万トンとなる見込み。今後、物流効率化に関する提携計画を策定する。

太平洋セメント、宇部三菱セメント、住友大阪セメントの大手3社で80%のシェアを持つ現在の枠組みが形成された業界再編から約20年経った。

国内需要は当時から3000万トン近く減り、少子高齢化・人口減少など社会情勢も大きく様変わりした。セメント事業の将来像をどう描くか。提携を模索する動きは今後も続く公算が大きい。