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2017年08月03日号

1;試行から実装の領域に~山口方式の品質確保システム

産学官協働のコンクリート構造物の品質・耐久性確保への取り組みが全国で試行から実装の領域に踏み込んでいる。山口県が2007年にひび割れ抑制対策として検討に着手し、14年に品質確保ガイドに移行した品質確保システムが「山口方式」として全国に波及。東北地方整備局では同方式をベースに東北特有の環境条件を考慮した独自の品質確保システムを確立し、凍害対策を示した技術資料も整備した。九州でも九州地方整備局や沖縄県で検討が進んでいる。

土木学会のコンクリート構造物の品質・耐久性確保マネジメント研究小委員会(229委員会、田村隆弘委員長=徳山工業高等専門学校教授)が7月28日に開いた報告会で全国各地での取り組み状況が報告された。

東北では品質確保システムの構築に加えて、構造物の品質確保のための技術資料が拡充されており、3月には「凍害対策に関する参考資料(案)」が公表された。積雪寒冷地である東北では冬期に凍結防止剤が散布されており、それに伴う凍害と塩害の複合劣化が問題となっている。技術資料では、表層劣化(スケーリング)を防止するため、冬期(12~2月)の平均気温と凍結防止剤の散布量を踏まえて3段階の凍害区分を設定し、厳しい凍害環境では対策として目標空気量を5%以上とした耐凍害コンクリートを適用することを示した。そのために必要な費用は発注者が負担することを明記した。

九州では、九州地方整備局が08年から運用している「九州地区における土木構造物の設計・施工指針(案)」に全国の品質確保への取り組み内容を取り込むことを検討している。同指針は山陽新幹線福岡トンネルでの覆工コンクリートの落下などを受けて、産学官のメンバーで品質確保に向けた検討を進めた成果として作成された。打込み時の最小スランプに基づく荷卸しの目標スランプ設定や温度ひび割れ照査などを全国に先駆けて実施した画期的な指針で、「九州基準」と呼ばれ、現在は14年度に改訂されたものが運用されている。次回改訂は18年度を予定しており、九州地方整備局コンクリート評価委員会(濱田秀則委員長=九州大学教授)では山口県や東北の成果の取り込みを検討している。

沖縄では高温多湿で鉄筋腐食が進みやすい環境下にあることに加えて、飛来塩分による塩害対策として使用した台湾産骨材に遅延膨張性のアルカリシリカ(ASR)反応が起きていることを受けて、フライアッシュ(FA)を使った高耐久性コンクリートによる品質確保に向けた取り組みが進む。採用実績は増えているが、県内にはFAの使用に関する指針がなく、沖縄県では沖縄版FAコンクリートの使用指針の作成に取り組んでいる。これまでに山口県の品質確保の取り組みや模範構造物を視察したほか、意見交換を行っており、FA指針の作成に加えて、産学官が連携した独自の品質確保システムの構築を目指している。