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2017年06月22日号

1;生コン、競合相手が台頭

生コンが鉄骨、プレキャストコンクリート製品といった競争相手に押されている。工期短縮で強みを持つS(鉄骨)造がシェアを伸ばしており、また、現場打ちをプレキャストコンクリート製品に切り換える動きも続く。人手不足がその背景にあることは言うまでもない。これまでの生コン製造業界の競争は同業者間でのシェア争いだったが、今後は建設市場の争奪を巡って鉄骨などとの競争に主戦場が移る。コスト競争力の強化を含めて生コンの優位性をどう確保するかが最大の焦点となる。

建設経済研究所が4月発表した予測によると、2016年度の建設投資は15年度見込みに比べて2・4%増の52兆1900億円と前年を3年ぶりに上回った反面、全国の生コン出荷量は3・4%減の8391万m3と過去最低を更新し、建設投資との連動性が失われた。

鉄骨が生コン需要を浸食している。これまでRC(鉄筋コンクリート)造が当然視されていた学校や病院などでS造の採用が広がっている。これに労務費の上昇などによる原単位低下も追い打ちをかける。

日本型枠工事業協会の三野輪賢二会長は先月開いた総会で、「昨年度のRC造着工面積は2434万m2で、11年度の2933万6千m2から約500万m2減った。型枠工事では金額ベースで800億~1000億円減ったことになる」と危機感をあらわにした。

建築構造物に占めるRC造のシェアは、国土交通省の建築着工統計によると、13年度まで20%台で推移していたのが、14年度19・6%、15年度18・0%、16年度18・1%と低下。一方、S造は11年度の32・8%を直近のボトムに、14~16年度は37%前半で高い水準をキープしている。太平洋セメントの福田修二社長は先月開いた決算説明会で、原単位低下で250万トン、S造シェアの上昇で100万トンそれぞれセメント需要を押し下げたとの試算を明らかにした。

鉄骨ファブリケーター(加工業者)も多忙を極めているとされ、「今年度は新規受注を受けられない状況と聞いている」(三野輪会長)。逆にいえば対応能力は限界に近づきつつあることから、S造のシェアは今以上に伸びないと見る向きもある。

能力増強の動きも

生コン製造業界にとって、もう1つの脅威がプレキャストコンクリート製品だ。国交省のi―Constructionで製品を活用することが打ち出されたことも追い風となり、業界各社は攻勢を強めている。「将来は熟練工を含め人手がさらに不足する。製品化を進めるのは当然だ」(大手ゼネコンの技術担当者)。

セメント協会がまとめた昨年度のセメント販売の用途別比率は、生コン向けが70・4%と15年度との対比で0・6ポイント低下した。直近で最も高かった13年度の72・4%から2ポイント低下。一方、製品向けは0・3ポイント上昇して13・6%となった。11年度から緩やかに上昇しており、合計で0・9ポイント上昇した。

生コン向けは93年度の69・4%を最後に、20年以上70%台を維持している。当時はバブル景気崩壊直後だったが、建設投資はなお堅調で人手が足りなかったことから、製品向けのウエイトが高まり、91~93年度は15・5~16・3%と高率で推移。人手不足の理由は異なるが、現在の状況に似ている部分もある。

別の大手ゼネコンの技術担当者は「製品は値段が高いのがネック。建築製品の工場稼働率もかなり高くなっているので、現場打ちからの切り換えも、能力的にそろそろ限界」と指摘する。ただ、中堅ゼネコンの安藤ハザマがこのほど、直営のコンクリート製品工場を千葉に新設するなど生産能力を増強する動きもある。同社の小野俊雄会長は開所式で、「人口減少の中で生産性を向上させるためにはプレキャスト化が必要」と指摘した。土木分野では、iConをテコに、これから製品活用が加速する公算が大きい。

価格の再検証も

生コンは、ほかの素材や工法との競争時代に突入した。生コン需要の浸食をどう抑え、失った需要をどう取り戻すかが地域を問わず業界共通の課題となる。

少子高齢化はじりじり進行しており、先行きも労働力不足が抜本的に改善する可能性は低い。つまり建設現場では、工期短縮、省人化、効率化が素材を含め工法選定で優先される要素になる。

高流動コンクリートなど現場打ち作業の省力化・省人化に貢献する技術開発の加速やその普及が1つの鍵だ。また、価格設定の妥当性も検証する必要がある。それを誤ると生コンシェアの低下を加速させる懸念があるためだ。特にオリンピックが終わった20年度以降は、縮小していくパイを巡って競合関係が強まるのは必至だ。

競争力を高めつつ、適正な収益をどう確保するか企業レベル、生コン協同組合レベルで製造、物流、販売各分野の事業構造の再点検が求められる。