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2017年06月15日号

1;炭価高、値上げ模索~セメント

セメントの国内需要は、3年におよんだ減少局面に終止符が打たれ、緩やかな回復基調が続く。最大の内憂をやり過ごしたことでメーカー各社は胸をなでおろしているものの、輸出採算の低下、セメント焼成燃料の石炭価格の高止まりなど経営を取り巻く環境はなお不安定だ。メーカーによって受ける影響に強弱はあるが、こうした要因が収益を下押しする中で、コストアップの転嫁や再投資可能な収益の確保に向けて値上げを模索する動きが出ている。

昨年度の内需は、4300万トンまで持ち直すとの予想とは裏腹に、3年連続減の4178万トンにとどまった。ピークの90年度以降で最低だった10年度(4161万トン)に次ぐ水準だが、当時は東北復興がなかったことを勘案すれば実質的には過去最低と位置付けられる。

昨秋頃から潮目が変わり始め、5月まで上向き基調で推移。五輪やリニアといった特需が始まり、これに補正効果なども加わって全国各地で荷動きが活発化している。メーカー各社は、内需はおおむね底を打ったと見ているが、今後を巡っては温度差がある。

「秋頃から需要が膨らみ、想定の4300万トンを超える」(セメント大手)との見方の一方で、別の大手は「前年を下回ることはないが、4300万トンに到達するかどうか疑問」と原単位低下問題もあって慎重な声もある。ただ、五輪特需が追い込みを迎える18~19年度は、4300万~4400万トンまで戻るという見方でおおむね一致している。

問題はその後だ。五輪後に先送りされた工事計画も少なくないことなどから、急降下する可能性は低いとはいえ、再び減少局面に入るのは避けられず、4000万トン前後が視野に入る。メーカー各社はそれに備えてセメント事業の体質強化や成長戦略を打ち出している。価格政策も柱の一つだが、その適正化をどう実現するのか現時点で方針を明らかにしているメーカーはいない。

直近でメーカー各社が本格値上げに取り組んだのが13年度。1000円程度の値上げを打ち出し、一部の都市で調査機関の表示価格が300~500円上がり、一定の成果をあげた。14年度以降は新たな値上げの打ち出しは行われず、前回値上げの未達成分の交渉が行われてきた。燃料コストの低下、セメント需給の緩和で値上げを打ち出しにくかったという事情もある。

だが、昨春までトン当たり50ドル台で推移していた石炭価格は夏以降、瞬間的に100ドルを突破し、足元でも80ドル台で推移。今年度に入りコストアップなどによる収益圧迫度が一段と強まっており、13年度以来の本格値上げに踏み切る可能性が出てきた。4~6月期の業績が1つの判断目安になりそうだ。

ゼネコンの業績が好調で、ユーザーの生コンもここ数年で市況水準が大きく上昇。今秋以降、セメント需給が引き締まれば、値上げの環境は整う。過去の経緯から値上げの先陣を切ることに消極的な声もあるが、様子見のうちに機会を失うことだけは避けないといけない。